Travels with an Elephant

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zoom RSS 神様映画からウェスタンへ

<<   作成日時 : 2009/11/04 14:34   >>

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シンブデーヴァンのデビュー作Imsai Arasan 23m Pulikesiは、まあよく出来た諷刺映画だった。こういう政治ネタを前面に押し出した作品は普通は現地事情に通じたネイティヴしか醍醐味がに触れえないものなのだが、馬面ヴァーディヴェールの(かれの割には)抑えた演技のせいで何とかタミル語文盲のガイジンにも楽しんで見れるものとなっていた。というより、これはナゲーシュ出演の最後の作品としては長らく記憶にとどめられるべきものであろう。

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シンブデーヴァンはチェーランの助監督を務めていた経歴の持ち主らしいが、調べてみるとマンガ家を本業としていたことがあったそうで、この映画の主人公、バカ殿プリケシはそもそもそのマンガに登場するキャラだったらしい。けれども監督がマンガ家だからといって、決して映画がコメディばかりである必要はない。シンブデーヴァンの第2作Arai En 305-il Kadavulはコメディのように見えてコメディではない、なかなかに泣かせる人情噺だった。

チェンナイのトリプリケイン地区はパール・テル通りにはカルッピア・マンションという小汚い集合住宅があって、その305号室にはラス(サンターナム)とモッカイ(ガンジャ・カルップ)という二人の無職青年が暮らしていた。ラスは経営学の学士号を持つインテリだが、コンピュータ・エンジニアが引く手あまたのチェンナイにあっては歯牙にもかけられず、喫茶店で薄給バイトに甘んじながら、日々高学歴ワープアの悲哀を噛みしめていた。一方のモッカイはアルファベット24文字を読むことすら覚束ない低学力で、街の出店の使い走りをして糊口を凌ぐありさま、都会で一旗揚げて故郷に村に錦を飾る夢など、どだい実現しそうになかった。

ラスはマヒことマヒシャスラマルディニ(マドゥミタ)に一目惚れするが、バイト先の喫茶店で見栄を張ってエリート・サラリーマンを装ったお蔭で彼女の前でさんざん恥をかかされたあげく、最後はマヒの兄に見つかって鉄拳制裁を受ける。その間モッカイの方はバスの中で婦人警官にあらぬ痴漢の嫌疑をかけられ、留置場に放り込まれてさんざん痛めつけられる。

二人はその晩したたかに痛飲して自らの不遇をかこち、世に不平等を生み出した神の無能を口を極めて呪詛する。するとにわかに二人の眼前にカーダヴル(プラカシュラージ)が顕現する。神は数々の瑞祥を現して二人を感服させると、かれらの不幸が本当に神の不備に起因するのか確かめるために、アーノルドと名乗って305号室で庶民に混じって生活をはじめる。アーノルドの隣人愛に富んだ生活態度にアパートの住人は徐々に影響される。ウェレスリイ卿と綽名されるプラブー(イラヴァラス)はアーノルドの法力をかいま見てその正体を知るが、神から口外を禁じられる。

アーノルドはある朝目覚めて自分の通力が利かなくなっていることを知る。かれの神秘の力の源、Gボックスと呼ばれる宝器がラスとモッカイの手で盗み去られていたからだ。仕方なくかれは近所のティファン屋で下働きの仕事に就く。ティファン屋の看板娘ブーヴァナ(ジョティルマイ)はアーノルドの慈愛に満ちた性格に惚れ込む。

Gボックスを盗み出した二人組は通力を使って享楽に耽る。互いに故郷に戻っては大金を親元にもたらすが、誰ひとりとして感謝する者はなく、あぶく銭はかえって不和を招くだけだった。二人組は鬱々として浪人時代に求職を拒んだ連中に意趣返しをするが、その心は容易に晴れない。ラスは意を決してマヒを訪ねるが、彼女が売笑婦に身を堕としているのを知って愕然とする。かれは絶望してGボックスを路傍のゴミ箱に遺棄するが、プラブーがそれを見つけて神のもとにもたらす。

通力を回復した神のもとですべての秩序が回復される。二人組は改悛して不幸の原因は自分自身にあったことを痛感する。神は姿を消すが、正道に復したアパートの住人たちはその後仕合せな人生を歩むのだった。
さてこの「305号室の神サマ」は興行成績的にどうであったのか?維基百科にはヒットとあるが、2番館3番館での不調を伝える記事も見つかる。恐らく後者の方が真相に近いであろう。というのもこの映画、コメディのようでコメディではないと同じく、神様映画のように見えて神様映画ではないのである。笑いを期待して映画館に赴けば失望するのと同様、神様の有難味を見に行ってもやはり落胆するのはほぼ間違いのないところだ。

作品の基調に現代人の道徳的堕落を揶揄するというサタイヤがあるのは疑いない。しかし翻って特定の神格の権能を説くという意図はこの映画にはなさそうだ。プラカシュラージのエピファニイ(神顕現)シーンがその証拠になる。ここで305号室の神サマはヴィシュヌ神、イエス・キリスト、釈尊の三柱の神の化身を表して(さすがにムスリムの神様は「描写」できなかったと見える)二人組の不審を払拭するのだが、この映画の白眉ともいうべき箇所なのでまずは一見されたい。

god in 305, epiphany

特定の神様のご利益を強調するのではないという意味で、この映画はデヴォーショナルではないと結論できよう。それどころではない。帰依を促すものでもないから、もしかして宗教映画ですらないかも知れない。少なくともカーダヴルは神通力を顕わすことによってではなく、人間的な友愛を身をもって示すことで人々に幸福をもたらすのだから。鳩山新内閣のプロパガンダ映画にしてもよいくらいのこの「305号室の神サマ」、実はよく出来た人情噺なのである。

細かい感情の機微を表現するとなれば、これはもうプラカシュラージの名演だけが映画全体の出来を支えていると言っても過言ではない。プラカシュラージがテルグだけでもいったい年間何本に悪役として出ているか数えてみたことはないが(たぶん20本を下ることはなかろう)我々ファンがどれに接しても安心してプラカシュラージの極悪非道ぶりを見てられるのは、多分にこの人が性格俳優をやらせれば国家映画賞レベルの演技力の持ち主だということを理解してるから、というのは大きいと思う。最近ではプリヤンが珍しく真面目に作ったこの映画最優秀俳優賞を獲得したのも記憶に新しいところ。なにせこの映画ではプラカシュラージの笑い顔が実にイイ。通常この男がニヤッとすると鬼畜な悪巧みをたくらんでいるのに相場が決まっているのだが、それをヒューマニティを具現する微笑みにも変えてしまえるところがやはり演技者として凄い。

プラカシュラージに比較すれば他の俳優には特記すべきものがない。主演の二人はコメディアン出身のようだが、筆者はどちらもコメディアンとしての演技はまだ見たことがない。ラス役は本来はヴィヴェクのところへ行くはずがギャラの関係か何かで話がおじゃんになったと聞いたことがある。サンターナムも演技の勉強は積んだ俳優のようだが、主役をはるにはいかにも華がない。ガンジャ・カルップに至っては言わずもがなである。Subramaniapuramでもシリアス役で使われていたが、何が評価されているのか一向に分からない。

是非とも指摘しておきたいのはギャラの安い落ち目の女優を巧みに活用している点である。ジョティルマイだのマドゥミタだのと言っても、たちまち顔と経歴が脳裡に浮かぶのは余程の変わり者だろう。ふつう堅気の衆にはこんなことは分からない。こういうこっそりとしか知られない女優さんを使って、しかも全然華やいだ雰囲気を醸し出さず、それでいて女優さんをそれなりにキレイに見せるというのは、実はかなり高度な技である。只今売り出し中のぴちぴち若手女優はむろん大好きだが、こういう名もなき路傍の花的な美人の演出の仕方も、けっこうオジサンの好みである。


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この人がジョティルマイ・ニシャント。ケーララのテレビドラマ出身で銀幕に進出、ツインタワーとの共演もあるそうな。


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でもってこちらがマドゥミタ。この映画ではちょいとレーカー風のメークだった。サティヤラージの「イギリス野郎」Englishkaran (2005)にも出てたらしいが全然記憶にない。

さてシンブデーヴァンの次回作だが、今度は何と西部劇になるらしい。一部の愛好家からタンドリ・ウェスタンとも呼ばれて溺愛されているインドの西部劇だが、最近ではマヘーシュ・バーブのTakkari Donga (2002)以来ではないか。もっともタミル語映画ではジャイ・シャンカール主演で一連の西部劇のヒット作があるらしい(残念ながら未見)し、MGRにも幾つか脱力系ウェスタンがあったはず。この新作のIrumbu Kottai Murattu Singam、そろそろ現地で公開になっても不思議ではない時期なのだが、なんとヒーローがローレンス(!)

IKMS01

でもってセコンド・ヒロインがラクシュミ・ラーイ(!!)らしい。


IKMS02

踊る荒野の用心棒に大いに期待したい。

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
>こういうこっそりとしか知られない女優さんを使って、しかも全然華やいだ雰囲気を醸し出さず、それでいて女優さんをそれなりにキレイに見せるというのは、実はかなり高度な技である。只今売り出し中のぴちぴち若手女優はむろん大好きだが、こういう名もなき路傍の花的な美人の演出の仕方も、けっこうオジサンの好みである。

いやぁ、まさに同感です。
 
川縁
2009/11/15 00:38

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